Nestinは、ClassVIに分類される中間径フィラメントの一つで、神経幹細胞のマーカーとして広く知られている。膵臓において、nestinは膵外分泌前駆細胞のマーカーの一つであり、膵前癌病変 (PanIN) との関連も報告されている (Carriere C, et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 2007)。Nestinは1600アミノ酸から成る大型のタンパク質で、vimentin, desminやinternexinなどの他の中間径フィラメントとheterodimerを形成して重合し、細胞内に存在している。腫瘍分野では、中枢神経系腫瘍におけるnestin発現と悪性度、遊走、浸潤、転移との関連が報告されている。これまでに我々は、膵癌において、浸潤性膵管癌60例のうち、20例 (33.3%) で癌細胞におけるnestinの発現を確認し、nestin発現が癌の神経浸潤および切除断端浸潤と関連があることを明らかにした (Kawamoto M, et al. Hum Pathol, 2009)。ヒト膵癌培養細胞では、細胞質内に細い繊維状にnestinの発現が確認される (図)。ヒト膵癌培養細胞のnestinの発現をshRNAにて抑制すると、膵癌細胞の遊走、浸潤、転移が抑制され、F-actinの発現亢進が見られた。PCR arrayを用いて遺伝子発現の変化について検討したところ、nestin発現抑制細胞において、E-cadherin, melanoma-associated cell adhesion molecule (MCAM) の亢進、VEGF-A, MMP2の減少が見られた。これまでの我々の研究で、ヒト膵癌細胞の遊走、浸潤、転移においてnestinが重要な役割を担っており、nestinの作用にはF-actinやE-cadherin等が関与していることが明らかになった (Matsuda Y, et al. Cancer Biol Ther, 2011)。
同様の結果が神経膠芽腫 (Ishiwata T, et al. Oncol Rep. 2011)、及び皮膚悪性黒色腫 (Akiyama M, et al. AACR. 2011) においても得られており、以上の結果から、nestinを標的とした分子標的治療によって、膵癌、神経膠芽腫、及び皮膚悪性黒色腫の浸潤、転移の抑制ができる可能性が示唆される。
中間径フィラメントは、他の細胞骨格タンパク質と直接結合し、細胞骨格タンパク質の制御に関わるだけでなく、様々なシグナル伝達系を制御しており、細胞の分化や臓器によって特異的に発現することが知られている。また、nestinは神経膠芽腫や皮膚悪性黒色腫における癌幹細胞マーカーの一つとしても報告されている。今後さらに、膵癌や神経膠芽腫、及び皮膚悪性黒色腫におけるnestinの役割の解明、及びnestinを標的とした治療法の有効性の基礎的検討を行い、難治性の癌における新規治療法の開発を目指していきたい。